広島市ICT施策の取り組みについての要望


発達障害のある人の現状

 発達障害を持つ人は6,8%と言われていますが、研究者の中には10%、中には20%は存在すると指摘される方もおられます。
 発達障害が理解されるにつれ、医療・保育・教育・就労の困難性や本人や家族の受容の問題や生活面などの課題が、次々と明らかになってきました。
 
 登校拒否や引きこもりやニートなどの社会現象と、発達障害との関連も指摘されています。同様に、暴力や不適切な育児を含めた児童虐待や養育の放棄なども、発達障害を持つ親や子どもが関係していると疑わせる事例が多く見受けられます。また、日本中を震撼とさせた神戸の少年A事件を始めとして、最近では「殺すのは誰でも良かった」という無差別事件に至るまでの凶悪な事件と、発達障害との関係も取り沙汰されています。
 
 発達障害の問題の解決をはかっていくことは、大きくは子育てや家族支援の問題の解決にもつながり、ひいては次世代の日本の主権者を育てる根幹に関わってくることにもなります。
 
 同時に、社会問題となっている不登校・登校拒否・引きこもり・ニート・フリーターの問題の激減につながり、犯罪の減少にもつながります。いわば国家プロジェクトに関わる重大な課題です。
 



<医療面>
 
 発達障害を疑い受診しようにも、光町療育センターの精神科医師3名・小児科医師3名、舟入病院精神科医師3名では、広島市に住んでいる18歳までの発達障害児全体の療育・治療教育に対応できないことは明らかです。光町にある子ども療育センターは、予約が数ヶ月町で、療育を希望する場合は更に半年待ちや、やっと受けられた療育も成果が見え始めても待ち患者が多いため、半年がたつと卒業しなければなりません。西部療育センターと北部療育センターは対象が就学前のため、そこで医療を受けている幼児は、小学校に入学すると光町の療育センターに移らざるを得ません。
 
 舟入病院にも小児精神科がありますが、ここには治療教育の部門はありません。
 
 最近では、2歳前後で発達障害と診断される子どもさんも増えてきています。早期に発達障害の診断を受けても、その後の適切な医療・治療教育の場がないという声は良く聞かれます。一方療育センターが諸外字を対象としていることから、障害を受け入れらられない親子が、通院を拒む傾向はいまだに続いています。
 
 発達障害の診断を受けずに中学生・高校生になった子が、突然登校拒否や引きこもりになり、その時点で医療機関を訪ねようとしても子どもは言う事を聞かないといった事例も良く耳にします。そんな子がネットにはまり多額のお金がかかって経済的に逼迫する場合や、家庭内暴力が始まる場合など、事例が深刻化するケースも多く報告されています。
 
 発達障害児を持つ親の8割りから9割が、鬱病に苦しんでいるといわれます。37歳になって初めてアスペルガー症候群の診断を受けた例のように、成人の発達障害者の医療は殆ど光が当たっていない状態です。早く診断を受け、適切な治療教育を受けられることが、親子のメンタルヘルスの面でも欠かせませんし、その後の発達障害児の人生を安全で豊かなものにしていくことは明らかです。
 
 発達障害児・者のライフステージに即した支援は不可欠なのです。



<教育面>
 
 保育や養育の分野を見たとき、コーディネーターの設置や特別支援教育アシスタントの配置や個別の指導計画などの実施によって、一見発達障害のある子どもへので立ては、前進してきているように見えます。しかし、発達障害の特性である書字障害や読字障害や音への知覚過敏などへの手立ては、殆ど行われていません。特に聴覚過敏な発達障害児は、行事や音楽などへの参加が難しいだけでなく、教室に入ることができずに登校拒否になる例が多く見られます。更には、学習不振や人間関係や集団への適応が上手くいかず、知的な遅れは全くないにも関わらず特別支援学級に入級するケースも増えています。これらは中学校での内申点がないため、高校受験や高校進学に深刻な影響がでています。
 
 登校拒否や引きこもりが小学校低学年から始まるケースと共に、中学校終了時点あるいは高校時に、成績優秀で進学校で学んでいるような発達障害児が不登校になり引きこもるケースがよくあります。パソコンなど、興味のある分野は専門家顔負けの知識があるだけに、発達障害児の小学校段階では抽象的思考の獲得、中学校段階ではメタ認知の獲得、高校段階では知識や情報を活用いて課題に対して事実や資料をもとに分析し理論を構築創造していく力の獲得が、図れるような視覚重視の指導プログラムの作成が急がれます。



<就労面>
 
 成人を迎えた発達障害を持つ人の一番大きな課題は、就労と社会的自立の問題です。
 大学を卒業して正社員として一般就労しても、言われた仕事はこなせるが、少し内容が異なる、あるいは場所や人が異なるとどうして良いか分らず立ち往生するといったことから、無能呼ばわりされたり厄介者扱いされて引きこもってしまったり、ノートになったりするケースが見られます。これらのケーズは本人も家族も発達障害ということは知らず、必要な手立ても受けてこなかったため、引きこもった後の支援もなかなか行き届かない状態です。引きこもりの多くは家庭内暴力を伴い、本人が暴れだすと家族は他の場所に避難したり家族の一部は別居して暮らす状態になったりすることもあります。
 
 また、会社や工場に出勤する就労の形態が圧倒的な割合を占めているため、聴覚過敏などの特性を持つ発達障害者は、人いきれや物のすれる音などによる耳鳴りやめまいに耐え切れず、中途退職をしたり職を転々としたりしてついにはニートとなるケースもあります。
 
 さまざまな理由で定職が持てないまま20代・30代・40代と引きこもりが続けば、本人の将来像も描けないし親も年老いていくばかりです。このような状況の中で、相談しようにも適切な期間がないのが現状です。
 
 広島市にも発達支援センターはありますが、現在は光町の療育センター内に併設され、4名の職員が配置されているだけです。家族や本人の相談に日常的に応じ、関係機関と連絡連携を取り、職業訓練・職種の開拓・日常生活の支援・障害の受容など多岐にわたり総合的に取組む機関が必要です。






 

このような現状から、私達は、広島市のICT施策と関わって、
「平成21年度の広島市の重点施策について」の項目との関連で、以下の事を提言したいと思います。


長期的目標

1.  子ども療育センターや発達支援センターを「こども発達センター」として独立充実させ、発達障害のある人の発見から一生にわたる支援ファイルを作成し(医療機関・教育機関・就労期間・社会保障旗艦をICTで結び、資料を一元化する)、必要な支援をて適宜行う体制を作る。
同時に、各区に子ども療育センター・発達支援センターを設け、「こども発達センター」とのITC化を図る。
(このことで、発達障害の早期発見と一貫性のある早期医療教育を可能にし、人格障害などの精神障害や情緒障害の併発を防ぎ、ライフステージに即した適切な支援を受けることが可能になる。)

2.  ITCを活用した発達障害児対象の中高一貫校を設置する。
(このことで、個室あるいは個別に仕切られた教室での授業が可能になり、聴覚過敏等を理由とする不登校や引きこもりの減少が図れる。また、発達障害児が社会適応に必要なソーシャルスキル等の治療教育の機会を得ることで将来の就労の可能性を広げることができる。)

3.  発達障害児が躓き易い発達課題とそれを解決する指導プログラムについての研究組織(当事者・医師・研究者・教師・療育関係者等)を作り、市立大学で指導プログラム化(ICTで)し、市内の教育機関に配布する。
(このことで、発達障害児のさまざまな特性に応じた指導法の研究が進み、優れた特性をさらに伸ばし、不得意分野にも効果的なアプローチが可能となり、学習不振をなくし、基礎学力の向上につながる。)

4.  発達障害者団体(当事者)を加えた産・官・学連携プロジェクトを立ち上げ、発達障害児の就労について、職種の開拓やテレワークによる就労の機会拡大を図る。
(このことで、在宅勤務化などの就労形態の広がりを生み、感覚過敏等で長時間勤務が難しい発達障害者が就労可能となり、引きこもりやニートやワーキングプアへの就労環境の提供になる。)

5.  発達障害児・者の特性をカバーする補聴器(音量を小さくする機能の開発)やサングラス(まぶしさを防ぐ)などの開発を、地場産業と大学が中心になっ行う。
(このことで、感覚過敏を持つ発達障害児・者の社会参加や就労の可能性が高まり、登校拒否やニートや引きこもりをなくし、抵抗なく集団に参加できる発達障害児・者を増やすことができる。


当面の目標

1.  聴覚過敏な発達障害児など、登校してもふれあい教室などの別室を利用している児童・生徒や不登校や登校拒否のため自宅にいる児童・生徒に対して、授業のリアルタイム放送を行い、学習の機会を保障する。(特に、登校拒否などで自宅に引きこもっている児童・生徒に対しては、授業のDVD化を行い、学年に応じて貸し出しを行うことも含めたICT化を進める。)
(このことで、学校に通えない子や教室に入れない子も授業を受けることが可能となる。教室に入らず授業を受けることが教室への復帰を妨げることにはならない。学習の遅れを解消することによって不登校児に自信をつけ、学校・教室への復帰の足がかりとすることができる。)

2.  発達障害児などの学習困難な児童に学習指導やSSTなどを行っている「にこにこ千田ルーム」(文部科学省より特に優れたプログラムとして選定され「現代的教育ニーズ取組支援プログラム」の一環として広島大学教育学部研究科附属教育実践総合センター学校心理  教育支援室が運営している)が、今年度末で閉鎖される事になっている。これを広島市が支援し、広島大学と連携して広島市内での相談・指導等の事業を継続する。
(このことで、発達障害児が通える専門機関を確保でき、専門の内容やスキルを学校教育に取り込むことができ、特別支援教育の質が向上する。大学等の研究機関と連携することで、無料または低料金でサービスの提供ができ、保護者の経済的負担が軽減できる。 広島市が事業への援助や公立化を図ることで、これらの問題は大幅に解決される。)

3.  西部療育センターと北部療育センターのICT化を進め、光町の子ども療育センターと同様な施設・設備・人的配置を持つ、18歳までの児童を対象とした機関にし、発達支援センターを付設する。
(このことで、発達障害を持つ幼児や児童だけでなく、受診や療育を希望する色々な障害を持つ幼児・児童の待機(順番待ち)を解消で きる。また、地理的に光町の療育センターに通うことが困難な子ども達も、容易に医療・療育サービスを受けることができるようになる。)

4.  舟入病院んの児童精神科に治療療育部門を設け、広島市民病院・安佐市民病院にも児童精神科と治療療育部門を新設する。同時に光町の子ども療育センターや西部・北部療育センターとのITC化を進める。
(このことで、発達障害の医療教育を、障害児の専門機関だけでなく身近な病院で気軽に受けられるようになり、専門機関への集中を分散差せることができる。また、障害を認めることができない親子の一般病院での受診が可能となる。発達障害と診断されている割合は対象の1割にも満たない現状を大きく改善し、診断後の一貫性のあるフォロー、ライフステージに即した適切な支援が可能になる。)

5.  発達障害児への医療費の援助を、現行の小学校1・2年からさらに拡大すると共に、SSTや感覚統合訓練や漢字指導などのさまざまな支援を格安で受けられるようにする。
(このことで、療育手帳を習得できない発達障害児の治療教育に対する家族の経済的負担を軽くし、さまざまな医療教育や専門教育などの支援が受けられることが可能になる。また、情緒障害や精神障害などの併発を防ぎ、引きこもりやニートの減少や犯罪防止につながる。)

6.

 市立高等学校に発達障害児対象の学級を設け、発達障害児の社会適応を高めるソーシャルスキルや職業訓練を行う部門を作る。特に、発達障害児の入学が多く見られる大手町商業高校に3部制を設け、ICTの専門家を養成していく。
(このことで、社会適応に必要なソーシャルスキルの習得が可能になり、発達障害があっても就労の可能性を高め。社会参加を勧めることができる。)

 

以下略

   
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