広島市5歳児健康診断検査実施への要望

 

広島市長様

 

子ども未来局長様

 

                            クローバーの会  

                            代表 村主裕子

 

 

 

1、始めに

 

  この度の広島市5歳児健康診断検査本格実施に至る広島市子ども未来局及び担当課の歴代に亘るご英断とご尽力に、敬意を表するとともに心から感謝申しあげます。

 

  近年、広島市に在住する発達障害児の診断や療育は、大きな前進を見せています。

 

  にもかかわらず、現実には、診断されている以上の数の発達障害児が存在しており、いじめや不登校などの問題を抱えて初めて受診・診断に至るケースも少なくありません。

 

  私たちクローバーの会は、長年、学習障害児や、発見されにくいとされる自閉症スペクトラム受動型などの子どもを、遅くても就学前に発見し、適切な支援を行って欲しいと要望してきました。

 

  広島市が私たちの切なる声にこたえていただいたことを重く受け止め、クローバーの会でも、5歳児健診完全実施のあり方は勿論、広島市のさらなる充実した乳幼児健診体制や、健診制度をスタートとした発達障害児の支援体制の充実等について、幾度となく検討・議論を進めてまいりました。

 

  この課題は余りにも膨大で内容も専門性を伴うことから、十分深まった内容になったと思ってはいませんが、今回、広島市子ども未来局のご尽力に少しでも応え協力していけたらという思いから、要望書として提出することにいたしました。

 

  広島市におかれましては、意をお汲みいただき善処くださいますようよろしくお願いいたします。

 

 

 

 

 

2、クローバーの会が考える5歳児健診の仕組みと内容について

 

 

 

 ①5歳児健診の健康診査事業について

 

  ○健診制度が持つ意味を、以下のようにとらえてください。

 

   ・障害の早期発見と対応のきっかけとなることで、その後の子どもの発

    達権や学習権の保障や人格形成を図る力に寄与する。

 

   ・子どもの育つ社会状況や家庭環境が時代とともに変化する中で、子育

    て支援の窓口の役割を持っている。

   ・健診制度の結果を踏まえ、必要な社会制度体系を作ることができる。

 

 

  ○5歳児健診を進めるに当たっての基本的考えを以下のようにとらえてく

   ださい。

 

   ・受診もれ・発見もれ・対応もれのない健診制度を実施してください。

 

   ・まず、広島市在住の5歳児全員が受診できることを目指してくださ

    い。

 

    そのために、未受診児及び転入児に対して、はがき・電話・家庭訪 

    問等により、積極的な受診勧奨及び状況把握を行ってください。

 

   ・健診は集団健診(発達検査と診断)を基本とし、保護者や幼児施設

    通所先などへのアンケート実施、幼児通園施設等での遊びや集団活動

    などにおける幼児の行動観察を通して、多面的横断的な幼児の発達診

    断に努めてください。

    決して、受託医療機関における医師の診察に任せず、集団健診時に

    保健師や臨床心理士等と共に、医師の診察を行ってください。        ・実際の発達診断に当たっては、子どもの発達段階の大きな節目である  

    4歳の発達の姿を獲得し、5~6歳の発達の姿を獲得しつつあるかど

    うかを見ることに焦点を当ててください。

    その中で、発達障害の特徴的な表れを見逃さないで、発達検査を行

    い、ほとんどの発達障害児の発見につなげてください。

 

   ・健診の構成は、受付(住所・氏名・生年月日・続柄・保護者・職

              業・それまでの受診状況)→

 

  アンケート(発達状況・育児行動)・・・・大津市

       の昭和46年度4歳児健診

 

  精神発達診断スクリーニング用アンケー

  トは別紙③添付

 

           問診(家族歴・流死産状況・妊娠時・出産時・新生

              児期・既往期)

 

     ↓

 

 計測(身長・体重・胸囲・頭囲)

 

     ↓

 

 診察(身体発育・脊柱胸郭・皮膚・眼・耳鼻咽喉・

    歯・四肢運動・体質その他)   

 

               ↓

 

           指導(体質・しつけ・栄養・病気・発達・環境・そ

              の他)

 

               ↓

 

 精神発達診断(発達段階・発達過程・育児行動・その

        他)

 

     ↓

 

 指導(発達指導)

      としてください。(これは、今回の5歳児健診だけでなく、既存の健

             診にも適応してください。)

   ・健診結果は、その日のうちに直接保護者に伝え、経過観察の必要なハ

    イリスク児はもちろんのこと、障害の有無にかかわらず子育てに関す

    る悩み相談については、適宜来所相談や訪問などの対応があることを

    丁寧に説明してください。 

 

 

 

*以下、大津市の乳幼児健診で行われている、乳幼児の発達のとらえ方

 と発達診断の内容について記します。時間がかかっても、同様の内容

 での健診を行ってください。   

      ・・・・大津市乳幼児健診システムについては、別紙①添付

 

     ・・・・大津市乳幼児健康カードー乳幼児健診・    

         大津1974年方式は、別紙②添付

 

     ・・・・大津市乳幼児健診の元になった発達の質的転換期

         は、別紙④添付

   (子どもの発達段階や特徴、発達障害児の特性、発達検査項目の多くは、  

   大津市乳幼児健診実施に大きな役割を果たされた故京都大学名誉教授田

   中正人先生の研究を元に、お弟子さんで、共に関わってこられた龍谷大

   学教授白石正久先生の著書から、また、一部は、故大津市発達相談員田

   中杉江先生の著書より引用しました。)

 

 

②4歳児・5歳児の発達の特徴

 

  ○4歳児の発達の姿

 

   ・全身運動の発達

 

    ケンケン・うさぎ跳びなど、異なる二つの動作を1つに統合させる新

    しい運動が出来るようになる。

    「・・・しながら、・・・する」活動スタイルが身に付き、日常生活

    において、手でしっかり身体を固定しながら、足を上に移動させて棒

    を登る、走りながらボールを蹴ることができる。

 

   ・手指操作の発達

 

    歌に合わせて指を順に1本ずつ立てていくような手遊び、片手に紙を

    持って支えながら、もう一方の手に持ったはさみで形を切り抜くこと

    ができる。

 

    描画は、三角形や四角形を描くことができる。

 

   ・言葉の発達

 

    「~を持ってきて配ってね」「~に~を渡してね」といった言葉によ

    る言いつけを守って手伝いが出来始める。

    自分の過去の出来事を語れるようになる。

 

    相手の質問の大意をとらえるようになり、それに対して自分の経験を

    思い巡らせながら、一所懸命答えようとする。

 

   ・自我の発達

 

    相手の意図や表情、動作に注目するがゆえに、相手からの評価に敏感

    になる。

 

    相手と自分の主張が対立する時、他者の意図や主張も理解したうえ

    で、「だって~だから」と根拠を示しながら落ち着いて自己主張する

    ようになる。

 

    「さみしいケレドモ留守番する」「もっとブランコに乗っていたいケ

    レドモ、友達と交代する」といった自制心も生まれる。

 

 

 

  ○5~6歳児の発達の姿

 

   ・全身運動の発達

 

    5歳児の熱中する運動遊びには、縄跳び・鉄棒・自転車・竹馬・跳び

    箱・遊泳などがあり、2つ以上の動きを組み合わせ、一連の動きがで

    きるようになる。

 

    リズム運動では、音楽に合わせて速さや強弱をコントロールし、指先

    や足先にも注意を向けるようになって、動きがなめらかでしなやかに

    なる。

 

   ・認知・思考の発達(「間」の世界がとらえる)

 

    「始まりー終わり」「できるーできない」の二分的な対比的な認識の

    中に、ズーッと続いたりだんだん変化する「間」の世界をとらえ始め

    る。

 

    制作や話では、「~して、それから、電車でズーッと行って、そこか

    ら船に乗ってまたズーッと行ったら~」のような説明をし始める。

 

    描画では、地面となる「基線」と「空」の間に「人」を描き、色を混

    ぜて中間色を楽しむようになる。

 

   ・認知の発達(厳密な比較と「チガウけどオナジ」世界の発見)

 

    数や液量などは、同量のジュースを違うコップに入れると、見かけの

    違いで量を理解するなど、4歳半ば頃から、「チガウところもあるけ

    どオナジところもあると言う見方が出来るようになる。5歳半ば頃に

    は、「違って見えるけど同じ」という共通性を取り出す認識力が育っ

    てくる。

 

   ・言語力・コミュニケーション力の発達

 

    文脈を作って、相手にわかるように説明し始める。

 

    しりとりを楽しむ。

 

    名前の文字と音を対応させるようになり、見えない相手に向けて、絵

    も交えながらメッセージを書くことを好むようになってくる。

 

   ・自己形成の発達

 

    4歳半ば頃から、出来ること出来ないこと、前と今、原因と結果、自

    分と他者など、対の関係を結んで自分をとらえ始める。

 

    友達や自分の変化を認識し、「○のところもあるけど、△のところも

    ある」と多面的に友達や自分をとらえるようになり、「自己形成視」

    が始まり、前向き・後ろ向きに加えて、横向きの自分を工夫して描く

    ようになる。   

 

  ③4歳児・5~6歳児の発達診断の実際

 

   ○4歳児の発達診断の視点(観察場面)

 

   ・出会いの場面と課題に取り組み始めるまでの過程

 

   ・日常生活や遊びの場面(友達との間にいざこざが生じたときのようす

    を直接観察するか、親や保育者など身近な大人から聞き取る。)

   ・課題遂行場面(全身運動・手指操作・言葉の諸側面について、「・・

    シナガラ・・スル」の活動スタイルを取り込んで、自らの活動を制御

    していこうとする姿が見られるか)

 

   ○5~6歳児の発達診断の視点(観察場面)

 

   ・「始めと終わり」など二つのことだけでなく、時間的・空間的・価値

    的な中間項が分化し始めているか

 

   ・その結果、「基線」「基点」が形成され始め、話す・描くなどの操作

    が獲得されつつあるか

 

   ・一見異なる二者の間に見えない共通性をとらえ始めているか

 

   ・経験をたどって接続詞を入れながら話し、何度も言い直しながら文脈

    が出来始めているか、見えない相手に対して、絵や文字を使って交流

    することへの関心が見られるか

 

   ・友達関係が広がり、家庭や園以外の場所に繰り出して遊びを広げ、世

    話や「教える」試みを通じて、相手の立場に立つことの出来る「自

    分」が育ってきているか

 

・自分の活動を振り返り、「自分」を時間的・空間的・価値的に多面的

 にとらえる「自己形成視」が出来始めているか

 

・具体的な各課題に対して、「教示を最後まで注意深く聞き、あらかじ

 め考えてから取り組むか」

 

・1回目に取り組んだ結果をどのように振り返って次の取り組みに生か

 そうとするか

 

・言葉による励ましや視覚的な支援に対して、よりよく改善しようと調

 整や努力が見られるか

 

・課題が難しい場合は、手がかりや手本となるものを、積極的に探して

 取り入れようとするか

 

 

  ④5歳児健診の健康診査内容について

 

   *4歳児の発達診断と5歳児~6歳児の発達診断の内容を組み合わせ

    たものを行う。

 

   (4歳児の発達診断の内容)

 

   ・全身運動の制御⇒片足跳び(ケンケン)

 

   ・手指操作の制御⇒左右の手の交互開閉把握(踏み切りカンカン)

 

   ・記号の制御⇒4数順唱

 

   ・数の認識⇒積み木10個と容器を準備(指定した数の積み木を入れ

                      る)

 

   ・表現活動⇒紙とペン(鉛筆)を準備(自由描画→モデルを見て四角

                      形→計3個の四角形→上手

 

                     に出来た形を尋ねる)

 

   (5歳児~6歳児の発達診断の内容)

 

   ・階段の再生⇒一辺2、5cmの赤色の積み木を10個準備(モデル

          を見せる→10秒後壊し、同じ形の再生を求める)                    

     *試行錯誤か計画的か、対称移動させたものを作ることができる

      かを見る。

 

   ・5個の塔の比較⇒子どもに見せないよう、一辺2、5cmの赤色の

            積み木を5個ずつ積み、10cmの間隔を置き、

           「どちらが高い?」→「どちらが長い?」→「どち

 

 らが大きい?」→「どちらが低い?」→「どちらが

 短い?」→「どちらが小さい?」と尋ねる。

       *子どもがどちらかを指したら、すぐ次を聞くようにし、そのさ

      し方や表情にも注意する。交互指示か。一方を「高・長・大」

      群とし、他方を「低・短・小」群とするか。ほんのわずかな違

      いを探そうとするか。「オナジ」と答えるか、を見る。

 

   ・左右の弁別・相手の左右⇒「左手はどれですか?」(左利きと場合

                は「右手」を先に聞く)に続いて、右

                耳、左目、右手、左耳、右目の順に尋ね

                る。左右の弁別が出来ていることを確認

                したら、対面して、「私(検査者)の右

                手はどちらですか」、「私の左手はどち

                らですか」と聞く。

 

   円系列描画課題⇒B4判の紙と鉛筆を置く。(「この紙に、一番小

            さい丸から、だんだん大きくして、一番大きい丸

            まで描いてください」と教示。

 

            描き終えたら、「描いた丸の数」を聞き、次に、

 

            1番小さい丸、一番大きい丸、「中くらい」の

            丸、「真ん中」の丸はどれかを聞く→描いたもの

            を自分で評価させる→上手く描けなかったところ

            に注意しながら、再試行させる。)               

     *観察のポイントは、順次大きく描いていくか、最大と最小の間

      に3個以上の中間の丸が描けるか、描いた後に、最小・最大・

      「中くらい」の丸を指すことができるか、「真ん中」だと考え

      た理由が言えるか、自分で評価を行った後の再試行で、どんな

      工夫が見られるか、同心円状などの異なる描き方をするか。

 

   ・人物の3方向描画⇒検査者自身の絵を描かせ、続いて「後ろ向きの

             姿」、「横向きの姿」を描かせる。「描けな

             い」「分からない」と言った場合は、「どうし

             たらいいかな」と尋ね、求められれば手本を描

             いて見せる。→描いた絵を見ながら具体的に尋

             ねて、横向き、後ろ向きをどのようにとらえて

             ようとしているかを把握する。

 

     *観察のポイントは、前向きでは、身体各部を備え、自分の性別

      や特徴、好みなどを表現しているか。後ろ向きでは、「目がな

      い」「髪の毛だけ」といった特徴をとらえているか。横向きで

      は、前・後ろ向きとは異なる表現の工夫をするか、描く前にイ

      メージを描こうと努力するか。描いた後に自らイメージを合わ

      せて見直すか。自分の思ったように描けないときに言葉で補っ

      て説明するか、を見る。

 

   ・自己多面視、自己形成視⇒赤ちゃんの時の自分を描かせる。→「小

                さい時と比べて変わった所」を尋ねる。

                →「代わっていないところ」を尋ねる。

                →大人になった時の絵を描かせる。→

                「大人になった時と今の違い」を尋

                る。→「大人になった時と今の同じとこ

                ろ」を尋ねる。→「大人になったら何に

                なりたいか」とその理由を尋ねる。

     *観察のポイントは、「小さいとき」から「今」までの変化が言

         えるか。同じところがいえるか。大人になってなりたいもの、

      したいことが言えるか。「今の自分」と「大人」との違うとこ

      ろと同じところが言えるか。将来に照らして今すべきことを考

      える現実吟味ができるか。時間的に順方向の問いであれば答え

      ることができるか、を見る。

 

    ・道順描画⇒毎日通っているところやよく行くところを尋ねる。→

          B4判の紙と鉛筆を置き、「家から○○までの道順」

          を描かせる(難しい場合は道順を思い出せるような言

 

葉かけをする)。→描き終わったら、行き方の説明を求

める。

        *観察のポイントは、出発点、目標地点が描かれているか。両地

      点の間にある曲がり角や目印が表現され、道筋をたどって説明

      することができるのか。言語的な支えを入れた場合に、間の表

      現が充実するか。紙の使い方(どんどんつなげていくか、一枚

      に収まるように予めくふうするか)を見る。

 

    

 

3、乳幼児健診における発達障害児の100%発見のために、以下の研修をお

  願いします。

  ①発達段階に関係なく、共通して見られる特性

    *生後まもなくの時期では、外界への能動性が発揮されない状態にあ

    る。

        いずれの年齢(発達段階)でも、他者への志向性が高まり、そうす

    ることで緊張、不安、葛藤などを克服していくための心理的支えの

    形成が難しい。

        発達の質的転換期に、他者を媒介とした活動の対象の拡大や、他者

    の共感、共有、受容、評価によるプラスのフィードバックによる心

    の強さが作られにくい。

       自ら立ち直る心の形成の弱さから、新しい対象や苦手な活動に立ち向

    かおうとする情意機能を制約する。

 

  ②生後2・3か月頃の発達段階での発達障害の現れ

   ・ウエスト症候群などの難治性てんかんを持つことが多く、快刺激とし

   ての人の声や顔、快の感覚・視覚刺激を内包したおもちゃなどへの志向

   性が高まらず、非対称姿勢などを自ら能動的に克服して、対象を視覚的

   にとらえようとする運動を起こしにくい。

   ・視覚的対象をとらえようとせず、受動的に聴覚刺激に反応する傾向、

   手におもちゃを把握させようとすると、その手を退かせようとするよう

   な傾向が見られることがある。

   ③生後6・7か月頃の発達段階での発達障害の現れ

   ・多くの場合は、「対」の対象への見比べの少なさ、一方のリーチング

   による志向はあっても、もう一方への志向の見られにくさがある。

   ・一方の手から他方の手への持ち替えを繰り返しながら、そのおもちゃ

   を視覚的に吟味しようとするような対象との間接性を持った操作が見ら

   れにくい。一方のおもちゃを片手で操作することが長く続き、一つの対

   象との接点で活動が閉塞し、さまざまな対象への探索的な接近を試み

      ることが量的に拡大しない。また、おもちゃを操作した後の変化を他者

   とまなざしで共感しようとするような、人への志向性も見られにくい。

 

④生後8・9か月頃の発達段階での発達障害の現れ 

   ・主に新しい対象に対して、物・人・空間への過敏性、緊張や不安に支

   配された対象への志向性の高まりにくさが見られる。

   ・限らた空間、対人関係、物などで活動が閉塞しているように見える。

   ・愛着行動、分離不安など、特定の人間関係を支えとして、不安な対象を

   観察する姿などが捉えられにくい。

 

  ⑤1歳半頃の発達段階での発達障害の現れ

  ・例えば、入れる、渡す、積むなどの定位的活動を、意図的に展開するこ

  との難しさが見られる。

   このとき、一つひとつの活動に他者との共感、意味の共有を確かめるよ

  うなまなざしは見られない。

  ・他者の意図と自らの意図を並列して調整することが難しい。

 

  ⑥2,3歳頃の発達段階での発達障害の現れ

  ・多くの場合、集団への参加の難しさ、他者の提示した活動への志向の難

  しさが見られる。

  ・得意でない活動を峻別し、拒否するようになる。

 

  ⑦4,5歳頃の発達段階での発達障害の現れ

  ・両手の交互開閉では、相手のモデルの速さやリズムに合わせることが難

  しいなど、運動や操作が巧緻になっていくことに難しさがある。また、上

  手く出来ない時、他者の意図や外界の状況と、自分の機能・能力の間に

  立って、自らを調整することが難しい。

  ・正方形模写では、2度3度と同じものを描いても、最初に描いたものよ

  り角が崩れ、小さく描いてしまう。

  

 以上の点をそれぞれの健診時期に継続して把握していくなかで、発達障害の 

 発見につなげることが出来る。

 また、発見されにくいとされる自閉症スペクトラム受動型については、以下

 の点を考慮することで、発見率の向上を目指すことが必要と思われる。

  (発見されにくいとされる自閉症スペクトラム受動型についてのとらえ方や

   診断内容については、以前クローバーの会で講演していただいた岡山大学

  病院岸本真希子先生のレジュメより引用しました。

 

  ⑧検査の着眼点 

   ・対人接触性⇒表情、視線、対人緊張の程度、距離感、マイペースさなど

  ・コミュニケーション⇒質問の意図理解、分からないということが言えな

             い

  ・振る舞い・態度⇒集中力、見通しが必要か、情動反応、対人的相互反応

           の質的障害の面においては、人前では表情が乏しい、

           緊張感が強い、人見知りが強すぎる。嫌なことも受け

           入れてしまう。他の人に自分から関わらない。他の人

           からの接触は嫌がらない。言われたことには何でも従

           う。一人遊びが多い。人見知りの有無だけでなく、

           追いや指差しの様子を把握することで、発見につなが

           りやすい。

                      コミュニケーションの質的障害の面においては、嫌な

           ことがあっても全く発信が出来ない。自分から話しか

           けることがない。

                        行動、興味及び活動の限定、反復的で情動的な儀式

           の面では、限定した興味(特定の玩具、電車など)、

           行動の切り替えが苦手、同じ場所を行ったり来たりす

           るなどが見られるが、家庭内で見られても、社会場面

           では表出しないことも多い。

                       そのほかの特徴として、失敗を極度に恐れる。過剰適

           応の傾向がある。融通が利かない。新しい環境(新奇

           場面)に適応しにくい。一度謙な思いをしたことは、

           忘れられない。不安や緊張感、恐怖感が強いことが挙

           げられる。

                       学校などでは集団内では大人しく、規則を守ること

           が多く問題行動も認められない。就学前や低学年の頃

           は、周囲の状況が見えないため、本人が困り感に気付

           きにくい。従順で言われた通りに何でも行うので、課

           題や宿題などはしっかりこなすことが多い。友達との

           トラブルを起こしにくい。しかし、過程の様子を注意

           してみると、パニック、かんしゃくが多い。こだわ

           り、脅迫的な傾向が強い(先生の指示などは絶対守ら

           ないといけないと深刻になる。不注意や落ち着きの

           なさ、他動などの症状がある。→聞き取りやアンケー

           トから把握することが大切になる。

 

 

 

 

 

4、5歳児健診後のフォロー体制について

 

   ①発達障害が発見されたケース

 

   現在、広島市でも、保健師が保護者支援等を行っていただいていますが、保護者支援に加え、通

 

園施設等への地域支援、医療機関や療育機関等関連機関の連携等を行う中心的コーディネーター

 

の役割を名実共に果たしていただきたいと思います。

 

そのために、発見された発達障害児一人一人の個別の支援計画等の作成や関係機関での共有をお願いします。

 

   特に、広島市子ども療育センター地域支援室との連携強化を望みます。

 

  ②要経過観察を必要とするケース

 

   来所を前提とした定期的な発達相談に留まらず、学区を担当する保健師を決め、家庭訪問や保育

 

   所等の訪問で発達相談を実施してください。

 

   保護者の主訴がなく、「障害」と言う言葉や状況に動揺したり拒否的だったりするケースも含め、

 

   保護者のゆらぎを日常的に受け止める体制の強化と、家庭訪問は勿論、両親教育・子育て教室・

 

   母親のエンバートメント講座の開催など手厚い支援を行ってください。

 

  ③5歳児健診後の個別の支援計画や取り組みは、就学相談の資料に生かされると共に、就学後はそ

 

   の学校で中心的に支援する専門相談員等へ引き継いでいく体制を確立してください。

 

 

 

 

 

5、大津市の健診体制の教訓から広島市の乳幼児健康診断への提言です。

 

  ①広島市の乳幼児健診は、4ヶ月・1,5歳・3歳健診が実施されています。このそれぞれの時期

 

に、発達障害の特性は見ることができるため、以下の発達診査項目を取り入れた集団健診を重視

 

し、それぞれの年齢時に現れる発達障害の特性を見ることのできる健診を実施してください。

 

また、上記の健診に加え、新たに10ヶ月健診も行ってください。

 

   ②大津市が行っている各健診時(広島市が行っている4ヶ月・1,5歳・3歳に該当する)の発

 

達診査項目は以下の通りですので、参考にしてください。

 

◎4ヶ月児健康相談における、発達診査項目

 

    ・微笑⇒支え座りの姿勢をとらせる。→注意を引き、反応を見る。(あやしかけに、自ら微笑み

 

        かけてくるかどうかを見る。)

 

    ・追視

 

     ⇒往復追視(支え座り)→主に左右、上下の追視が出来るかを見る。

 

     ⇒往復追視(あおむけ)→あおむけで、左右、上下、さらに360度と3種類の追視が出来

 

                 るかを見る。

 

     ⇒対追視→一辺が2,5cmの積木を2個準備する。→支え座りの赤ちゃんの正面・眼前約

 

          30cmのところで、二つの積木を打ち合わせ注目させる。→積木を左右にゆっ

 

          くりと約30cm開き、対視の様子を見る。→もう一方の積木の追視もするかど

 

          うかも見る。

 

    ・おもちゃへのリーチング⇒がらがらやつり輪に対して、腕や手を伸ばそうとするかを見る。

 

                 →おもちゃを近づけ、持とうとするかどうかも見る。→おもちゃ

 

                 を持ったら、振ったり目で確かめたり口に持っていこうとするか

 

                 どうかを見る。

 

    ・姿勢・支え寝返り⇒赤ちゃんを裸にし、あおむけ、うつぶせの姿勢について観察する。→支

 

              え寝返りをさせ、体位を正しい位置に保とうとするかどうかを見る。→

 

              あおむけの赤ちゃんの一方の腕を胴体と90度になるように開いて、そ

 

              の手とは反対の下肢を持って腹部につけるようにすることで、寝返らせ

 

              (左回り・右回り)その様子を観察する。

 

◎4ヶ月児健診における2つの障害の把握

 

       ○点頭てんかん

 

       ○中枢性協調障害

 

   ◎1,5歳児健康診断における、発達診査項目

 

    ・はめ板の回転課題⇒はめ板(縦約15cm、横約37cm、厚さ約1,5cmの緑色の木板

 

              に、直径約9cmの円孔、一辺約9,5cmの正三角形孔、一辺約7,

 

              7cmの正方形孔が等間隔に開けられたもの)に、直径約8,5cm、

 

              厚さ約2cmの木製の白色はめ板を入れる。

 

    ・積木の課題⇒一辺2,5cmの木製の赤色積木を10個机の上に出し、標準点にその中の2・

 

           3個を置き、積み上げるよう指示。

 

    ・器への入れ分け課題⇒直径14cmほどの皿を2枚と、赤色積木8個を準備する。→子ども

 

               の正中線に対称に、2枚の皿を並べて置く。→積木を全部半分に分け

 

               るよう指示。

 

    ・描画課題⇒紙と赤鉛筆を出し、描かせる。→描いていることを確認後、丸い円錯画を子ども

 

          から見て上部の右もしくは左よりのところに書き込む。→そのモデルを見て、子

 

          どもがどう描き方を変化させるかを見る。

 

    ・指さしの課題⇒「絵指示」「身体部位」の課題で、相手からの質問に対して、応答的に答える

 

            指さしの状態を見る。

 

   ◎3歳児健康診断における、発達診査項目

 

    ・積木構成⇒一辺2,5cmの赤色の積木を8~10個提示し、自発的操作を見る。

 

    ・トラックの模倣、家の模倣、門の模倣

 

     ⇒トラックのモデル提示(衝立の陰で、3個一列に並べ、1個を先頭の積木の上に置いた後、

 

                 衝立を取る)→同じものを作るよう指示。

 

     ⇒家のモデル提示(衝立の陰で、2個の積木を少し間隔をあけて置き、1個を両方の積木の

 

              上に乗るように置き、衝立を取る)→同じものを作るよう指示。

 

     ⇒門のモデル提示(衝立の陰で、4個の積木を2個ずつ少し間隔をあけて置き、上下の積木

 

             を少しずらす。その間に、1個の積木を斜めに傾けて、固定するように置

 

             き、衝立を取る)→同じものを作るよう指示。

 

    ・比較課題⇒「新版K式発達検査2001」に含まれる「大小比較」「長短比較」「表情理解1

 

(笑っている-泣いている)」「表情理解2(怒っている-喜んでいる-驚いてい

 

る-悲しんでいる)」「性の区別」「重さの比較」を実施。

 

    ・描画

 

     ⇒自由画

 

     ⇒円模写・十字模写

 

    ・言葉

 

     ⇒自分の名前・年齢・性別

 

     ⇒了解問題(新版k式発達検査2001)より、空腹→睡眠→寒さの解決法を問う問題を実

 

施。

 

 

 

 

 

6、乳幼児健診体制が真に生かされるために

 

  乳幼児健診で全ての発達障害を持つ子どもが発見され、その後の適切な支援を通じて、発達障害児が自己の能力を最大限発揮し、就学・就労をなどのライフステージで、社会の一員として意欲的に生きていくことができることを強く願うものです。

 

そのために、健診制度の充実に留まらず、子どもたちが医療・療育機関等での十分な支援や連携は

 

 勿論、保育教育機関での充実した学習活動の支援等が受けられるよう環境整備が進むことを期待します。

 

 今広島市が行っておられる乳幼児健診を、私たちが提案している検査項目を実施する「健診もれ・発見もれ・対応もれのない」集団健診方式に変えてください。

 

発達障害児のいる家庭や教育機関等へのフォロー体制の確立や、子どもの系統的な指導・支援プログラムに基づくワンストップで就労までサポートする体制の確立も進めてください。

 

 乳幼児健診制度だけでも、要望を実現していただくためには多くの時間と予算がかかり、特に人的資源が必要です。必要な職種の確保や人材育成など、系統的な取り組みをお願いします。

 

 来年度は、今後10年を見通した乳幼児健診制度実施計画の作成、再来年度から、計画的な人材育成と必要な部署の確立に着手していただき、5年以内に、「健診もれ・発見もれ・対応もれのない」集団健診方式への転換、10年後には名実共にこの集団健診方式を「広島型モデル」として確立させてくださることを希望します。

 

この制度の確立は、「広島市に生まれて良かった」と言えるほどの大きな成果を生みます。

 

本格実施をしていただく中で、大きな社会問題となっている不登校や引きこもり、ニートや虐待・DV等の問題の解決も図られていくでしょう。

 

 この壮大なプロジェクトは、担当課や子ども未来局だけで出来るものではないと思います。

 

 広島市が総力を挙げて取り組まれるべき内容です。

 

 これを機会に、広島市が、副市長をトップとした、各市長部局及び教育委員会を縦断的総合的に包括した組織を設置され、今まで各担当課でご尽力いただいてきた発達障害児への支援の飛躍的な取り組みを実現してくださいますよう心よりお願いいたします。