私には大学2年生の時にアスペルガー症候群という診断を受けた35歳の息子がいます。親の定年が近づいてきたこのごろ,われわれ親はもちろん息子自身もたいへん気に病んでいることがあります。それは,息子の“就労”と“親が亡くなった後の生活”のことです。

 

【就労について】­­­――職場の理解があれば…ジョブコーチがいてくれたら…と何度思ったことでしょう。

大学卒業時には2次障害としての“うつ”状態もあったので「息子にあった仕事をゆっくり探せばよい」と考えていました。体調の良い時はハローワークへ出かけたり,人材派遣会社の契約社員になったりして,いろいろな仕事を経験してきましたが,どの仕事も安定して継続することができず,今に至っています。

その原因は,発達障害を起因とする想像力の不足からおこっていると私は感じています。たとえば,コンビニで深夜アルバイトをしていた時には「『これから○分間休憩してよい』と言われたから休んでいたら,同じ人から○分たたないうちに『お客がいるのに何をしているのか』とひどく怒られた」とか,人材派遣会社からの「現地集合8時間勤務」を受け,「自分の車で行く」と言ったため,会社から頼まれて同じ仕事をする人を同乗させ往復して実質13時間拘束なのに賃金は8時間労働の分だけしかもらえず,そのうえ体調をくずしたり…とか。私なら「コンビニはお客第一」「現地までの通勤時間を考え交通費が自分持ちなら割に合わない」とすぐ感じ取れることを,発達障害を持つ息子はゆっくり時間をかけて考えたり実際に経験してみなければ判断できないのです。

教科の学力があり,面接もすませ,就職試験に受かっても,仕事を続けることの困難さを発達障害を持つ人は抱え続けています。

「大学を卒業するまで同じようにすごしてきた友人たちが8時間働いているのだから,自分も同じように8時間労働がしたい」と息子は願っています。でも私は「息子がする8時間の仕事の疲れは,友人たちの12時間の仕事の疲れよりも大きいのではないか?」と心配もしています。「0時間」か「8時間」かの選択ではなく,息子の力量に応じた仕事を,短時間でもいいからさせてやりたいと思っています。

その場に適切な一言のアドバイスがあれば,体調に配慮して仕事量を調整してくださる人がいれば,「働きたいけど,働ける場がない」多くの成人で発達障害を持つ人の就労が可能になると思います。“就労”できれば,発達障害を持つ人に支給する障害者年金の金額を減らすことができるはずです。また,それ以上に,息子自身が自分の社会的な役割を感じられ「生きる意欲を持ってくれること」を,私は親として一番強く望んでいます。

 私が知っている発達障害を持つ人たちは,「ボランティア」に参加することを好む人が多いようです。

「ボランティア」とはっきり示されていることで自分の価値を確認しているように思われます。市役所の清掃作業とか,壁面緑化植物の水やりとか,敷地内の草取りとかの仕事を,責任者の下で,発達障害を持つ人の“就労”への足掛かりの一歩として「ボランティア」として(できれば有償で)させてもらうことはできないだろうか?と考えています。

 

【親が亡くなった後の生活について】­­­――困ったときに,どんな相談にでも責任を持って耳を傾けてもらえる場がほしいと思います。

 私は「息子は個性的な子だなぁ」とは感じつつ,自分と同じように物事を見聞きし,理解していると思いこんで20年間育てました。「発達障害」ということばを知ってから,本を読んだり,勉強会に参加したり,親の会でアドバイスを受けたりしてきました。でも,息子にとっての最善の方法は息子が自分でみつけていかなくてはなりません。今は,息子が悩んでいる様子が感じられたら親が声をかけることができます。一緒に考えてくれる親の仲間がいます。親が関係機関へ連絡することができます。

「何をどうすればよいのか」選択肢が多いと選べないのが発達障害を持つ人たちの特徴のひとつです。選択肢さえ思い描くことがむずかしいこともよくあります。「発達障害者手帳」を持って出かければ,いつでもどんなことでも寄り添って考えてもらえる信頼できる場を,困ったときに,「市役所の○○へ行ってみよう」と思える場をぜひつくっていただきたいと思います。